胡蝶の夢




時々、分からなく、なる…


夢うつつ。
金色の男は其処で待っている。
夢といえばこの男の出てくる時間のことで、
だからもう夢を見る感覚など忘れてしまった。

自分の姿を模しているはずなのに、妙に力強く感じる手が、
そっと薬売りの頬をたどる。
されるがままになりながら、薬売りは呟いた。

なにがだ

男の声は声でなしに、頭の中に直接響く。

「俺が、人なのか…人でないのか」

声を出さずともこの男には通じるのかもしれないが、
薬売りはあえて音にする。
夢の世界は掴みどころが無くて、自分を意識しなければ
自分すらも散っていきそうだと思う。

お前は人だ

男の指先が髪を梳き、耳をくすぐる。
こそばゆさに薬売りは小さく息をついた。

「なぜ、言い切れる?」

時々、感覚が消えそうになるとぞっとする。
彼の指先が、自分のもののように感じられる瞬間。
ここに居る自分は、誰なのか、彼なのか。

物の怪に物の怪は斬れん

男はこれ以上の真理は無いとでもいうように言い切った。

退魔の剣を扱う手は、人のものだ。
数多の人の中から俺が選んだお前だ。
だから、お前は人だ。

そんなものか、とおもう。
男の唇が、髪に寄った。

僅かに湿った感触が、額に触れる。


お前と俺は、別のもので、だからこうして触れ合える



読まれたのか、偶然か。
どちらでもいいかと、薬売りは体の力を抜いた。
男に寄りかかり、目を閉じる。
足元に、地面ができていく感覚。

めが、さめる。




小鳥の鳴き声が響く。
先ほどまで男に触れていた感覚は、薄ら暈けてはいるがまだあった。
はて、と薬売りは思う。
己が人であったとして、

「夢は、どっちなのやら…」

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旧拍手。もともとこのお題のつもりで書いていたものではありますが。
胡蝶の夢と一炊の夢がごっちゃになっててこれでいいのかと思いながら書いたら合っていたようです。
元は多分同じはずなのになぜか後の方が体格しっかりしてる気になってしまうのはなぜー






モドル